トップへ戻る

希少糖とは

希少糖とは

       

「希少糖」とは、自然界での存在量が少ない単糖(糖の最小単位)およびその誘導体を指し、50種類以上あります。自然界の単糖は、その多くがブドウ糖(グルコース)であり、デンプン、セルロース、砂糖、乳糖などの構成成分になっています。そのほかには果糖(フルクトース)、マンノース、ガラクトースなどが多く存在しています。これらの自然界に大量に存在する糖は生物のエネルギー源として利用されてきました。
一方、自然界には微量ながらもアルロース、アロースといった様々な単糖=希少糖が存在することは知られていましたが、これまでその働きが明らかではなく、その存在の理由が謎に包まれたままでした。しかし、これら「希少糖」には、現代人にとって役立つ様々な生理機能があることが解明され、注目されるようになってきています。

日本で良く知られている希少糖では、虫歯予防に効果がある「キシリトール」や、低カロリー甘味料 の「エリスリトール」があります。これらの単糖は天然の糖類をもとに微生物や化学的反応を利用して工業的に作られる糖アルコールです。
一方、「アルロース」や「アロース」は工業的に大量生産することが大変難しい希少糖でしたが、香川大学でこれらの生産方法についての研究が進み、新しい酵素の発見によって量産化に成功しました。こうして多量に作られた希少糖を研究材料として、様々な機能が明らかになってきました。

1991年、香川大学農学部に在籍していた何森 健教授(現名誉教授)が、農学部食堂裏の土壌の中から、果糖を希少糖D-アルロースに変換させる酵素を持つ微生物を発見しました。何森名誉教授は、このことを振り返り、「研究者人生で一生に一度ある贈り物」と表現しています。 その微生物が、身近な香川大学農学部の食堂裏から見つかったことはこの上ない幸運であり、希少糖研究を粘り強く続けていたからこその贈り物でしょう。

2002年、希少糖生産戦略であるIzumoring(イズモリング)が発表されました。下図は、ブドウ糖 (グルコース)や果糖(フルクトース)など炭素6つからなる単糖(六炭糖)について示されているイズモリングです。この図の中には、アルロース(Allulose)やアロース(Allose)など、主な希少糖の生産戦略が盛り込まれています。

イズモリングが構築されたことにより、様々な単糖の効率的な生産設計図が得られ、希少糖が研究に利用できる量が生産できるようになりました。その結果、研究が飛躍的に発展し、アルロースは事業化され、その他の希少糖のいくつかについても事業化の目途が立ってきました。

また、イズモリングは、様々な六炭糖の関係性を系統的に示しました。これまで素材ごとに個々に行われていた研究を、六炭糖全体の中に位置付けて広い視点から見通せるようになりました。

全希少糖の生産方法の確立により、これまで全く研究されていなかった希少糖の生理活性が次々に発見され、食品関連、医療関連、工業、農業資材関連等の様々な市場への用途開発に向けて、香川大学を中心に様々な産学官連携研究が進展しています。また、2001年に設立された「国際希少糖学会」は香川大学内に事務局があり、これまでに8回開催された国際シンポジウムには、毎回世界中から多数の希少糖研究者が参加しています。

自然界にはごくわずかしかなく、意味のないものと思われがちであった「希少糖」は、研究の進展とともに活躍の場が増えてきています。バイオの21世紀での主役は高分子の遺伝子・たんぱく質と言われてきましたが、低分子の希少糖でこれまでにない用途開発・事業化が進み、大いに期待されています。

科学技術の発展により、人類は豊かになりましたが、カロリーの過剰摂取による肥満や生活習慣病といったマイナスの面も現れてきています。これからの人類社会の健康福祉、生活向上の面でも、「希少糖」が一翼を担う時代になってきています。さらに、これまでの広い分野の各種産業に用いられている糖とは物性の異なる希少糖が、新たな機能を発揮して様々な産業用途で利用される可能性もあります。

産学官連携

希少糖研究は、香川大学が中心となって産学官連携で発展と事業化に結び付けてきました。1999年より、希少糖の有用性に関する基礎的研究開発を産学官で開始し、ここで希少糖に関する基礎的知見が蓄積された結果、2002年にはアルロース生産基盤が確立、希少糖事業化の基盤的研究開発が整いました。また、同時期の文部科学省の知的クラスター創成事業の際には、食品・医薬品・農業利用など多くの分野で希少糖を用いた研究が開始され、希少糖が広い分野で役立つ可能性を示し、現在の希少糖研究に繋がるエポックメイキングな展開がありました。

事業化にあたっては、「糖」であることを最大の武器に、まず食品分野から検討し、2011年に希少糖含有シロップを商品化し香川県内で先行販売しました。2013年にはシロップ製造工場が本格稼働したことにより、全国販売となりました。さらに希少糖アルロースの純品も、2021年から全国販売されています。
当初から事業化を想定した基礎研究・応用研究を香川大学が中心になって行い、現在、希少糖に関する研究は、その機能面への期待から、世界各国(韓国、中国、アメリカ、イギリスなど)で進められています。香川大学を中心とした研究開発チームが希少糖研究の第一線として、拠点性や優位性を堅持するためにも、産学官連携による研究基盤づくりと事業化が求められてきました。
香川大学発ベンチャー企業として、合同会社希少糖生産技術研究所(現在:松谷化学工業(株)希少糖生産技術研究所)や(株)レアスウィートも設立され、いずれも香川大学や県、民間企業と連携しながら、香川県の希少糖産業拡大にそれぞれ一役買っています。

産学官連携事業経過

1991年 希少糖生産酵素(DTE)発見---希少糖大量生産技術研究の始まり
1991年-2001年 科学技術庁地域先導研究:生産技術の確立・生理活性の確認
2002年-2006年 文部科学省知的クラスター創成事業:希少糖事業化の基礎的研究開発
2004年 松谷化学工業(株):希少糖研究開発事業に参画
2006年 (同)希少糖生産技術研究所:大学発ベンチャー企業設立            
2007年 (同)希少糖食品:大学発ベンチャー企業設立
2008年-2010年 文部科学省都市エリア産学官連携促進事業:希少糖アルロースの事業化
2009年-2010年 経済産業省地域イノベーション創出研究開発事業:
希少糖含有シロップの事業化
2010年 (株)レアスウィート:大学発ベンチャー企業設立
2011年 希少糖含有シロップ業務用販売開始(香川県内限定)
2012年 希少糖含有シロップ500gボトル販売開始(香川県内限定)
2012年 (一社)希少糖普及協会設立
2013年 希少糖含有シロップ生産工場建設(香川県番の州)
希少糖含有シロップ全国販売
2015年-2017年 近畿経済産業局戦略的基盤技術高度化支援事業:
希少糖D-アロースの大量生産技術の確立とその応用技術の開発
2017年-2021年 文部科学省地域イノベーション・エコシステム形成プログラム:
かがわイノベーション・希少糖による糖資源開発プロジェクト
2023年-2024年 内閣府地域中核大学イノベーション創出環境強化事業:
希少糖研究強化による香川地域イノベーション創出活性化

香川大学

希少糖研究をリードする香川大学

希少糖の研究は、香川大学で始まりました。農学部の何森 健(いずもり けん)教授(現名誉教授)が希少糖の生産研究を始めて以来、次々と基礎研究および応用研究で成果を挙げてきた香川大学は、「希少糖研究」で世界をリードしています。

香川大学国際希少糖研究教育機構

2001年に、香川大学内に「希少糖研究センター」が設置されました。2016年に、センターは再編整備され、全学体制で希少糖研究を推進する「香川大学国際希少糖研究教育機構」を設置しています。
さらに、2023年の組織再編を経て、現在研究推進部門、事業化推進部門、地域連携推進部門の3部門が設置されており、学長直轄の下、80名の教授陣(各部局との併任:2024年9月現在)が、独創的な研究開発の飛躍的展開や地域における関連産業の拡大と振興などを目指しています。

https://www.kagawa-u.ac.jp/IIRSRE/

国際希少糖学会

同じく2001年に、香川大学内に本部を置く「国際希少糖学会:International Society of Rare Sugars」を設立し、2002年に第1回国際シンポジウムを開催して以来、2年~3年おきにシンポジウムを開催し、最新の研究成果を世界に向けて発信しています。第8回国際シンポジウムは、2023年3月31日~4月2日にかがわ国際会議場において開催されました。

https://www.isrs.kagawa-u.ac.jp/

第8回国際希少糖学会シンポジウム
(かがわ国際会議場;2023年3月31日~4月2日)

香川県

香川県では、総合計画の重点政策として“産業拠点香川へ”を掲げ、産業振興、経済の持続的な発展と雇用創出の実現を目指しており、地域ならではの特長ある「希少糖産業」について、積極的な支援を行い、育成・集積を図っています。
主には、「知の拠点」の形成、「希少糖産業」の創出、「香川の希少糖」ブランドの確立の3本柱で各事業に取り組んでいます。

「知の拠点」の形成

産学官による希少糖研究の強化や希少糖研究成果の発信などにより、世界をリードする「知の拠点」の形成に努めます。

香川大学の希少糖研究を支援
(希少糖研究開発加速化支援事業)

希少糖の生産や希少糖がもつ様々な機能性に関する研究など、香川大学が取り組む事業化に向けた研究開発を継続して支援しています。

「希少糖産業」の創出

希少糖の生産・試験研究を行う企業の誘致・育成や、食品、医療、農業、工業など様々な分野での新商品開発の取組みを促進するとともに、産学官の連携によるネットワークを活用しながら、「希少糖産業」の創出を目指します。

希少糖等を使った商品開発の取組みを支援
(糖質バイオ商品開発支援事業)

香川大学等の糖質バイオ分野の研究成果を事業化する県内企業の取組みを支援しています。

希少糖等共創推進会議などを開催
(ネットワーク等形成事業)

希少糖を中心とした糖質バイオ産業の創出に向け、事業展開の方向性などを検討する「希少糖等共創推進会議」や、かがわ産業支援財団に事務局を置き、研究成果等の情報発信、情報交換を行う「かがわ糖質バイオフォーラム」を開催し、産学官のネットワークを構築しています。

「香川の希少糖」ブランドの確立

県内外の各種イベントなどを通じて、「希少糖=香川県」のイメージを発信し、世界に通じる「香川の希少糖」ブランドの確立を図ります。

「香川の希少糖」ブランドの確立に向けた
各種取組み(香川の希少糖ブランド化推進事業)

希少糖の認知度を高め、関連商品の普及をさらに進めるため、大規模な見本市への出展や「希少糖まつり」の開催に対する支援、県内外のイベント等での情報発信、消費者やマスメディアなどに向けたプロモーション活動を行っています。

香川県産業技術センター

香川県産業技術センターでは、希少糖の食品産業への利用を拡大するため、これまで培ってきた研究成果を活かし、希少糖の依頼分析を全国に先駆けて行うなど、希少糖に関連した技術相談や県内企業の商品開発の支援を行っています。

公益財団法人 かがわ産業支援財団

かがわ産業支援財団では、地域先導研究、知的クラスター創成事業、都市エリア産学官促進事業などの産学官連携事業の中核機関としてプロジェクトを推進してきました。
2008年からは、香川県、香川大学、民間企業等が連携して希少糖、糖鎖、複合糖質など特徴ある糖質の機能を活かした健康バイオ産業の創出を図るために設立された「かがわ糖質バイオフォーラム」において、産学官のネットワーク構築を促進しています。同フォーラムでは、研究会やシンポジウムを開催しており、2023年には第15回シンポジウムを開催しました。
また、希少糖等を使用した商品の研究開発や販路拡大を助成制度により支援することで、県の産業活性化につなげています。

合同会社希少糖生産技術研究所
(現 松谷化学工業㈱希少糖生産技術研究所)

2007年に希少糖生産技術研究所を希少糖の研究拠点である三木町に開設しました。ここでは、希少糖の生産技術の開発研究、関連する微生物の分離技術の開発研究、希少糖の生産販売などを行ってきました。さらに、アルロースを生産する唯一の植物「ズイナ」の苗を教材用・研究用として商品化しました。この事業では“小蓑ズイナーズ”と呼ばれる、地域のお年寄りたちの仕事づくりにもなっており、この希少糖の木・ズイナの栽培に関する産学官連携の取り組みにより、2017年度ふるさと名品オブザイヤー政策奨励賞を受賞しました。

希少糖産業基盤の形成:
松谷化学工業㈱番の州工場の操業

2013年に、希少糖の製造拠点(希少糖含有シロップの生産工場、希少糖生産酵素の製造)を建設し、希少糖の全国展開を促進しました。この工場では、年間12,000トンの希少糖含有シロップを製造することができ、日本全国に向けて販売してきました。
また、アルロースの生産に必須の固定化酵素(D-アルロースエピメラーゼ)を生産しており、松谷化学工業と米国イングレディオン社がメキシコにおいて共同で建設したアルロース生産工場に出荷しています。

一般社団法人希少糖普及協会

希少糖普及協会は、希少糖という機能性素材の長所を現代社会の日本の消費者のみならず、広く世界各国の消費者に知らせ、希少糖関連技術の進歩、人類の健康・福祉と社会の発展に寄与することを目的として2012年11月に設立されました。
健康志向の高まりとともに、「砂糖を控えめに」という視点がますます社会に浸透してきています。その観点からも、希少糖入り食品・飲料の需要は確実に高まりつつあります。そのため、大学やメーカーなどの研究から最新の知識を得て、消費者に広く正しく伝えていくという活動が大切になってきています。希少糖普及協会では、これまでに産学官の取り組みと一体となって活動し、それらの内容を学校や各種団体に向けて学習会を実施し、また、各種イベント等において周知活動を行っています。

希少糖普及協会は、希少糖という機能性素材の長所を現代社会の日本の消費者のみならず、広く世界各国の消費者に知らせ、希少糖関連技術の進歩、人類の健康・福祉と社会の発展に寄与することを目的として2012年11月に設立されました。
消費者の健康志向の高まりとともに、「砂糖を控えめに」という視点がますます社会に浸透してきています。その観点からも、希少糖入り食品・飲料の需要は確実に高まりつつあります。そのため、大学やメーカーなどの研究から最新の知識を得て、消費者に広く正しく伝えていくという活動が大切になってきています。希少糖普及協会では、これまでに産学官の取り組みと一体となって活動し、それらの内容を学校や各種団体に向けて学習会を実施し、また、各種イベント等において周知活動を行っています。